第3章 はじまりのプレリュード【両面宿儺】
「……呪物は全然見つからない。でも、ヤなものは見つけちゃった」
はぁ、と詞織がため息を吐いた。
『おぉぉおぉぉおぉぉおぉぉ――――……』
学校に隣接するラグビー場のゴールポストにしがみついているのは、異形の姿をした化け物――呪霊だ。
――日本国内での怪死者・行方不明者は年平均一万人以上。そのほとんどが、人間から溢れた負の感情――【呪い】による被害だ。
「大勢の思い出に残る学校や病院には、人間の負の感情の受け皿となって呪いが吹き溜まりやすい。だから、毒を以て毒を制する悪習を使って――つまり、邪悪な呪具とか呪物を魔除けとして置いて他の呪いを寄せつけないようにするって言うけど――……だからって頑張りすぎじゃない? どこで特級の呪物なんか手に入れたんだか」
「しかも、この呪具、長い年月を経て封印が緩み、呪いが転じてしまっている。今や呪いを呼び寄せて肥えさせる餌だ。いつ人死にが出てもおかしくない」
二人して何度目になるか分からないため息を吐き、相変わらず叫び続ける呪霊を見上げる。
「おそらく、二級の呪霊。例の呪物の影響か。コイツはそれなりだが、校舎内にも低級の呪霊がうようよいた」
「祓っとく?」
詞織の問いに、伏黒は「放っておけ」と踵を返した。
「いちいち祓ってたらキリがない。それよりも、さっさと呪物を回収しないと」
「いっそ、一度学校を閉鎖した方が効率的な気がする。なんか、呪いの気配が大き過ぎてうまく探せないし……それなら、全部の呪いを祓ってから隅々まで探した方が楽、しかも確実」
「それは最終手段だな」
スマートフォンの画面に呼び出した呪物の画像を見ながら、伏黒は眉を寄せた。筆で文字を書きつけた札を何重にも貼りつけ、小さな木箱に入れて封印されていた呪物。
近くにあるような気はする。下手をしたら、すぐ隣にでも。けれど、同時に手の届かない遥か遠くにあるような気もするのだ。