第11章 来たる日のためのエチュード【邁進〜底辺】
コンコンッと軽いノック音に、伏黒は扉を開ける。
気配で何となく詞織だろうかと思って開けると、そこにはやはりジャージ姿の恋人の姿があった。
「メグ、大丈夫? ショーコさんが部屋に戻ったって言ってたから」
呪術高専の専属医師である家入 硝子。反転術式を使える数少ない術師だ。
東堂との交戦で傷だらけだった伏黒はパンダに助けられ、詞織たちより先に家入の治療を受け、自室へ戻っていた。
「オマエは大丈夫か?」
「ヘーキ。垂水って人に術式で手足拘束されて痛めつけられたけど、ショーコさんに治してもらったし」
「そうか」
よく見れば、詞織のジャージの腰回りの布が裂けている。それも攻撃を受けたときのものだろう。
「あと、ジッパー下げて胸元 触られて。それからキスされそうになったけど……」
「はぁッ⁉︎」
思わず大声を上げた伏黒に、詞織が夜色の瞳を丸くした。
「え? な、なに?」
「『なに?』じゃねぇだろ、バカ!」
「ば、バカ? だから、何もされなかったって。キスされそうになったけど、棘くんが助けてくれたから」
だからバカだと言っているのだ。
すでに胸を触られているだろうが。
「あぁ、もう!」
グイッと細い腕を引っ張り、詞織を室内へ引きずり込んだ伏黒は、小さな身体をベッドへ押し倒す。
裂けたジャージのジッパーを下ろすと、白い肌には今朝つけたばかりの所有印が刻まれていた。ツ…と触れると、詞織の身体がビクッと震える。
「肌触られて『何もされてない』わけ?」
「だ、だって……触られただけだし」
「キスされそうになったのに?」
「だから、されそうになっただけで、されてないから……!」
強い口調で返してくる詞織に微かに苛立ってしまうのは、嫉妬心だろうか。
分からず屋の恋人の首筋に顔を埋め、強く吸いつく。
「ぃ……た……」
チュ…と音を立てて離すと、真っ赤な所有印が新たに刻まれた。その印をねっとりと舐め上げ、苛立ちを逃すように大きく息を吐く。