第11章 来たる日のためのエチュード【邁進〜底辺】
「そういうこと。あたしが扱ってるのも呪具。初めから呪力が篭っているもんだ。オマエらみたいに、自分の呪力を流してどうこうしているわけじゃねぇよ」
「じゃあ、何で呪術師なんか……」
すると、真希は悲観的な表情ではなく、ニヤリと意地の悪い顔を見せた。
「嫌がらせだよ。見下されてたあたしが大物術師になってみろ。家の連中、どんな面(ツラ)すっかな。楽しみだ」
すごいな、と詞織は改めて思う。
呪力を持たずにこの世界に飛び込むなんて……少なくとも、自分には無理だ。
もし、詩音に取り憑かれることなく、呪力がほとんどない状態だったのなら、自分は呪術界に足を踏み入れることはしなかっただろう。
檻に囚われている間も、いつか……なんて考えなかった。ただ、片割れに寄り添って、支えている自分に酔って、自分を保つことしかできなかった。
「オラ。さっさと硝子サンとこ行くぞ」
「高菜」
促す真希と狗巻に、詞織は真希への敬意を募らせた。それは釘崎も同じようで、彼女も真希にすり寄る。
「私は真希さんのこと尊敬してますよっ」
「わたしも」
「すじこ」
じゃれてくる詞織たちに、真希は「あっそ」とぶっきらぼうに言いつつ、少しだけ優しげな表情を見せた。
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