第11章 来たる日のためのエチュード【邁進〜底辺】
「メグ!」
「伏黒!」
呻き声すら上げる間もなく放り投げられた伏黒を追いかけようとした詞織の腕を、ひんやりと冷たい『何か』が引き止めた。
「ダメダメ。キミの相手はボクだよ」
優しげな微笑を浮かべているのは、確か垂水という呪術師だ。
気がつけば釘崎も、真依に背後から抱きすくめられ、銃口を突きつけられている。
腕を拘束しているのは水だ。
素早く腕の周りを流れ、解くことができない。
「離して。メグを助けに行くから」
「伏黒クンよりボクの方がいい男でしょ?」
言われてバカ正直に垂水を数秒見つめた詞織は、小さく笑った。
「全然。メグの方が、あなたよりも百倍 いい男よ」
癇に障ったのか。
腕に巻きついていた水が素早く詞織の身体を駆け回り、全身を拘束する。
まるで蜘蛛の巣のような水の網に囚われた少女を眺め、垂水は優しげな顔に歪んだ笑みを浮かべた。
「見たところ無愛想だし、面白味もないし、顔もまぁまぁ。それに女の経験もなさそう。恋愛偏差値も低そうだし。ボクの方がキミを楽しませてあげられるよ? それに……ハジメテって、女の子は痛いみたいじゃん? ドウテー相手じゃ、キミが辛い思いをするだけ……」
ペラペラと一人で喋りながら、垂水の長い指がジャージのジッパーをゆっくり下ろしていく。
そのことに、恥ずかしさより屈辱が詞織の心を支配した。
ギュッと唇を噛み締める。
平均よりはやや小ぶりの胸元を覆うのは、薄い桃色の下着。露わになった透き通るような白い肌には、いくつもの真っ赤な所有印が咲いていた。
昨夜……いや、今朝も、伏黒が愛してくれた証だ。
何度も、何度も身体を撫でた伏黒の指、熱い唇、余裕のない瞳、低く甘い声音で名前を呼んで……「好きだ」と短く繰り返す言葉を思い出し、胸がキュッと切なく震えた。
所有印を見つめていた垂水の無遠慮な手が這う。