第11章 来たる日のためのエチュード【邁進〜底辺】
ジリジリとした空気が満ちる中、東堂が続ける。
「性癖にはソイツの全てが反映される。女の趣味がつまらん奴はソイツ自身もつまらん。俺はつまらん男が大嫌いだ。交流会は血沸き肉踊る、俺の魂の独壇場。最後の交流会で退屈なんてさせられたら、何しでかすか分からんからな。俺なりの優しさだ。今なら半殺しで済む」
「最後の交流会って……高専は四年制でしょ」
「野薔薇。交流会の参加は三年までなんだよ」
なるほどね、と釘崎が詞織の回答に相槌を打つ。
「答えろ、伏黒。どんな女がタイプだ?」
答えを迫る東堂に、伏黒はちらりと背後を見た。東堂の気迫が恐ろしいのか。詞織は身を小さくして震えている。
釘崎は悠長に「夏服いいなぁ」と真依の制服を眺めているが、彼女も丸腰だ。できれば、揉め事は避けたい。
――「ユージを連れて、野薔薇を助けて逃げて。わたしがコイツの気を引く」
――「わたしはもう、誰も失いたくない……辛い思いをしたくない……っ! 苦しいのはイヤ!」
――「メグのことは、世界で……一番 大好きなの……ずっと、一緒にいたい……っ!」
――「もう挫けない。挫けるのは、これが最後にする」
頭の中で、詞織の言葉が蘇る。
誰よりも強くて、真っ直ぐで、頑固で……誰よりも弱い。
詞織の強さに憧れた。真っ直ぐなところに惹かれた。
頑固なところがどうしようもなく可愛くて、弱さを愛しいと思う。
「……別に、好みとかありませんよ。その人に揺るがない人間性があれば、それ以上は何も求めません。そして、辿り着いた先にいたのがコイツです」
振り返った先で、詞織の顔がみるみる真っ赤に染まっていく。やがて、ボンッと音でもなりそうな勢いで夜色の目を見開き、顔を伏せた。
「おい、詞織。大丈夫か?」
さすがに心配になって顔を覗き込むと、本当に顔が熱くなっている。
「へ、ヘーキ。ビックリした、だけ……」
「何に?」
聞き返すと、詞織はムッとした表情で「知らない!」とそっぽを向いた。