第11章 来たる日のためのエチュード【邁進〜底辺】
「どんな女がタイプだ?」
何を仕掛けてくるのかと思っていたところへの唐突な質問に、伏黒は思わず「は?」と間の抜けた声を出してしまう。
詞織と釘崎もキョトンとし、二人の視線が伏黒と東堂を行き来した。
三人の視線の先で、真依と垂水がやれやれと肩を竦めている。
「返答次第では、今ココで半殺しにして、乙骨……最低でも三年は交流会に引っ張り出す」
そう言って、東堂は羽織っていた学ランを脱ぎ、ビリビリとTシャツを破って、足を大きく開き――構えた。
「ちなみに俺は、身長(タッパ)と尻(ケツ)がデカイ女がタイプです」
笑顔のつもりなのか。恐ろしい形相でこちらを見てくる東堂に、伏黒は呆れしか出てこない。
「なんで、初対面のアンタと女の趣味を話さないといけないんですか?」
「まぁまぁ。いいじゃん、減るもんじゃないし。つき合ってやってよ。ちなみにボクは東堂と逆で、小柄な子がタイプなんだ。性格は主張しすぎず、芯の通った子。黒髪ロングだと尚良し。詞織ちゃんなんて、まさに理想!」
「会ったばかりで理想かどうかなんて……分かるわけないでしょ」
言いつつ、確かに垂水という青年の語る理想は詞織と近しいと感じていた。もちろん、譲る気などいっさいないが。
「ボクは京都校三年、垂水 清貴。東堂、お前も名乗っとけ。お友達じゃないヤツに好みの女は話せないって」
別にそういうわけではない。しかし、こちらの心情など無視し、低い体勢のまま東堂も名乗り出す。
「京都校三年、東堂 葵。自己紹介 終わり。これでお友達だな。早く答えろ。男でもいいぞ」
男に興味などない。自分が好きなのは詞織だけだ。