第11章 来たる日のためのエチュード【邁進〜底辺】
「出たわね。垂水先輩の癖」
「ひどいなぁ、マイマイ。ボクの恋人探しを悪癖みたいに」
「マイマイって呼ばないでって言ってるでしょ。っていうか、実際 そうじゃない」
垂水……一級呪術師の垂水 清貴か。
去年 起きた呪詛師・夏油(げとう)による未曾有の呪術テロ【新宿・京都 百鬼夜行】。その京都の夜行に現れた一級呪霊三体、特級呪霊一体を単独で祓った実績を持つ呪術師。
性格は軟派なようだ。真依の言葉通りなら、やはり詞織に近づけてはいけない。
「……で? 皆さんお揃いで、こんなところに何しに来たんですか?」
目の前の垂水という青年を睨みつけながら尋ねると、彼は肩を竦めて同級生のところへと戻っていく。伏黒の質問に答えたのは真依だ。
「アナタたちが心配で、学長について来たの。同級生が死んだんでしょう? 辛かった? それとも、そうでもなかった?」
「な……何が言いたいん、ですか?」
震える声音で詞織が返すと、真依は歪んだ笑みを浮かべた。
「いいのよ。言いづらいことってあるわよね? 代わりに言ってあげる。"器"なんて聞こえはいいけど、要は半分呪いの化け物でしょ。そんな穢らわしい人外が隣で不躾に呪術師を名乗って、虫唾が走っていたのよね? 死んでせいせいしたんじゃない? あぁ。それって……あなたもだったわね。神ノ原 詞織ちゃん……?」
ビクッと詞織が肩を震わせ、顔を青くさせる。そんな詞織に、真依への怒りが込み上げて睨みつけた。
「あらあら、怖い」
「真依」
ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべる真依に低い声が続ける。
「どうでもいい話を広げるな。俺はただ、コイツらが乙骨の代わり足りうるのか、それが知りたい」
「東堂の聞きたいことは想像がつくけど。どうぞ」
垂水が促すと、東堂と呼ばれた筋肉質な男性が伏黒を呼んだ。
「伏黒……とか言ったか」
進み出た彼に、伏黒は身構えた。東堂の名前も聞いたことがある。
垂水と同じく、【新宿・京都 百鬼夜行】の鎮圧に参加し、京都の夜行に現れた一級呪霊五体、特級呪霊一体を単独で祓った――その実力は垂水を凌ぐ。