第11章 来たる日のためのエチュード【邁進〜底辺】
「はぁ……自販機、もっと増やして欲しいわ」
「無理だろ、出入りできる業者も限られてるし」
「わたしは、もっとラインナップを増やしてほしい。オレンジジュースしかないのは不満。せめてアップルジュースとグレープジュースとパインジュース」
「多すぎだバカ」
ガコンガコンッと缶が落ちる音を聞いていると、不意に人の気配を感じ、伏黒は振り返った。
黒いショートカットの少女、明るい髪色の青年、服の上からでも分かる筋肉を持つ男性の三人が立っている。その三人のうち、少女は禪院 真希と顔立ちがひどく似ていた。
伏黒は詞織を庇うように前に出て、低い声で尋ねる。
「なんで東京(コッチ)にいるんですか、禪院先輩」
「あっ、やっぱり? 雰囲気近いわよね。姉妹?」
「禪院先輩は双子だから……」
詞織が説明すると、少女はクスクスと小さく笑う。
「嫌だなぁ、伏黒くんも詞織ちゃんも。それじゃあ、真希と区別がつかないわ。真依って呼んで」
少女――禪院 真依に、詞織は怯えたようにして伏黒の背に隠れた。
「コイツらが乙骨と三年の代打……ね」
そう言いながら、筋肉質な男がグルリと大きく動かして首を鳴らす。
「女の子は二人か……お? あ! あぁ……見つけた、ボクの運命……!」
明るい髪色の青年がこちらを指差してきた。
「え? あたし?」
照れたようにして釘崎が尋ねるが、彼は「違う違う」と言って詞織へと近づいてくる。その間に、伏黒は割って入った。
「……伏黒クン、だった?」
「そうですが。コイツに何か用ですか?」
「そう! その子に用があるんだ! ボクの運命の相手……とうとう見つけた! 小柄な身体、黒くて長い髪、儚げな容姿……まさに! ボクの心の真ん中にストライクした‼︎」
この男、頭がおかしいのか?