第11章 来たる日のためのエチュード【邁進〜底辺】
「物を出し入れできる呪霊を飼ってる術師とかもいるよな」
「それは無理だろ、レアだし。飼い慣らすのに時間もかかる。むしろ、あたしが欲しいっつーの。見つけたらあたしに教えろよ」
「カルパス一年分」
二人の会話を聞き流しながら伏黒は考える。
あの雨の日のことで、伏黒は詞織に話していないことがあった。
呪霊の生得領域を出た宿儺と対峙したとき、彼は言ったのだ。
――「オマエ……あのとき、なぜ逃げた? 詞織とかいうあの小娘もそうだ。わざわざもう一人と変わる手間を掛けて自滅した。小娘の場合は、自身の力を過小評価しての自業自得だがな」
あの口ぶりからして、自分と詞織には特級に勝てる可能性があったという意味だったのだろうか。そのことに、宿儺は気づいていた。
詞織を膝に抱えたまま、伏黒は石段に伸びる自身の影に指を這わせる――トプッと指が沈んだ。
「メグ……?」
伏黒の異変に気づいた詞織が身体を起こす。狗巻も気づいたようで、「ツナツナ」と同級生を呼んだ。
「先輩、なんとかなりそうです」
やがて、買い物から戻った釘崎を含め、伏黒たち一年は揃って飲み物を買いに行かされることとなった。
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