第11章 来たる日のためのエチュード【邁進〜底辺】
「おっせぇよ、恵、詞織。何してた?」
「こんぶ」
長い棒を担いで尋ねる真希に、伏黒は「何でもいいでしょ」と返し、学ランを脱ぎ捨ててジャージを着込む。その隣で詞織も学ランを脱ごうとしたので慌てて止めた。
「おい! オマエはあっちの木陰で着替えてこい」
「なんで?」
心底疑問に思っているらしく、小首を傾げて聞いてくる。いや、その仕草は可愛いけども。
「バカ。俺の前では別にいいけど、他のヤツの目もあるだろ」
額を軽く小突き、無理やり森林のあるスペースへ押し出した。不承不承といった様子で木陰に向かった詞織に、伏黒はホッと息を吐く。
全く、ここには狗巻もいるのだ。自分以外の男に詞織の肌を見られるとか、冗談じゃない。
「なんだ、オマエら。つき合ってんのか?」
「えぇ。最近ですけど」
もっと言うと昨日からだが。
照れもせずにさらりと言うと、真希と狗巻は目を丸くした。
「ほぉ、随分とはっきり言うな」
「事実なので」
きっぱりと言い切る伏黒に、真希はニヤリと口角を上げる。
「言うじゃねぇか。あたしの可愛い妹分をモノにするとは……当然、覚悟はできてんだろうな?」
「何の覚悟ですか?」
そんな話をしていると、パンダに振り回されながら、釘崎が「伏黒ォ‼︎」と叫んできた。
「嫁家族への結婚挨拶みたいなことしてんじゃないわよ! 交代! もう学ランはしんどい! 可愛いジャージを買いに行かせろ‼︎」
言うや否や。ポーイとパンダが釘崎を投げる。同時に、詞織が着替えて戻ってきた。
中学のときに使っていたジャージで、伏黒のものとデザインは同じ。なんだか、ペアルックみたいで照れる。
「メグ、お待たせ」
「別に。待ってない」
素っ気なく返すと、ツイ…と詞織は釘崎へと目を向けた。
「真希さん。野薔薇とパンダくん、何やってるの?」
「オマエらは近接 弱っちぃからなぁ」
そこへ、狗巻も立ち上がり、詞織の肩を叩く。そして、真希は長い棒を構え、狗巻も腰を落として構えた。
「まずは、あたしたちから一本 取れ。話はそれからだ」
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