第11章 来たる日のためのエチュード【邁進〜底辺】
詞織は伏黒の手を小さな手のひらで包んだ。何か言おうとしたが、結局 何を言うこともなく口を噤む。掛ける言葉が見つからなかったのだ。
必死に頭を巡らせながら伏黒を見上げると、彼の瞳と目が合う。
「あ、えっと……わ、わたし……」
受刑者を助けられなかったこと。詞織は謝りに行こうなどと考えなかった。彼らが死んだのは自業自得だ。
けれど、伏黒の話を聞いて思ったのだ。せめて、助けようとした意思は、知っていてもらいたい。釘崎、そして虎杖は――それでも助けようとしたのだということを。
伏黒は、虎杖の意思を残そうとしたのだ。彼の正しさと、善意を。
なんだか、自分がとても醜く思えて、恥ずかしくなった。
「メグは……優しいね……わたしは……」
思わず俯くと、大きな手のひらが頭を撫でる。
「俺が勝手にやったことだ。それより、急ごう。みんなもう始めてるだろ」
「うん。そうだね」
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