第10章 雨だれのフィナーレ【呪胎戴天/雨後】
きっと、知らないだろう。八年の間に募った、この恋心。
少女への想いを持て余し、眠っている詞織へ何度も口づけた。
一つ屋根の下で暮らしていたのだ。少女への劣情に耐えかねて、自ら身体の熱を慰めたのだって、一度や二度ではない。
ずっと好きだった。伏黒にとっての、唯一無二だ。
それが今、自分の腕の中にある。
これ以上――耐えなくていい。
「幼なじみとして出会ってから八年――ずっと我慢してきた。もう、いいよな?」
問いかけながら詞織の頬に触れ、首筋を通って、柔らかな膨らみに触れる。
すると、詞織はあどけない笑みを浮かべ、コクリと頷いた。
「教えて、ほしい……メグのこと、全部。心も身体も……他の誰も見えないくらい……わたしに独り占めさせて」
限界だった。頭の中で、理性がプツンと音を立ててちぎれる。
衝動的に詞織をかき抱き、乱暴に口づけを繰り返し、次第に深くしていく。
「そんなの、とっくの昔になってる」
ただ夢中で求め合った。身体の痛みも、心の痛みも無視して。
自分たちの中にある感情をぶつけ合った。
それは、虎杖 悠仁という存在を失くした虚無感を埋めるための行為でも――……あったかもしれない。
少なくとも、伏黒も詞織も、自分の中で虎杖 悠仁の死に整理をつけるには、互いの存在が必要だった。
それ以上に、伏黒がこのタイミングで詞織を求めたのは、後悔したくなかったからだ。
死という存在を間近に感じたからこそ、この想いに蓋をしたままでいたくなかった。詞織の想いを知ったから余計に。
身体が熱い。その熱を逃すように、伏黒は学ランを脱ぎ捨て、シャツのボタンをいくつか外す。
そして、詞織のボタンを外し、まっさらな白い肌へ吸いつき、伏黒は「好きだ」と少女への想いを譫言のように繰り返した――……。
* * *