第10章 雨だれのフィナーレ【呪胎戴天/雨後】
伏黒は気絶するように眠った詞織を抱きしめ、優しく長い髪を梳かした。
静かな寝息と甘く柔らかな詞織の存在感に愛しさが込み上げてくる。この幸せは夢なのではないかと、そう疑ってしまうくらい信じられなくて、伏黒は何度も詞織に触れた。
不意に、詞織の瞼が震える。空気の温度が少し下がり、微かに持ち上げられた瞼の下から紅い瞳が覗いた。
『……詞織はあたしのよ……あたしだけの詞織よ……あたしだけの……』
「知ってるよ」
言われなくても、初めて会ったときから知っている。
それでも……。
「オマエには負けるけど……俺も詞織が好きだ。だから……」
――少しだけ、俺にも詞織を分けてくれないか?
縋るように、乞い願うように、詞織の……否、詩音の手を握り、額に当てる。
すると、しばらく こちらを見ていた詩音は、『……なんなのよ』と小さく呟くのと同時に手を振り払い、憎しみを込めた紅い瞳を返してきた。
『本当に気に食わない男。だいっきらい……!』
詩音の瞼が落ちる。それから間もなく、また規則正しい寝息が聞こえた。眠っている詞織の意識を奪った詩音が、再び妹の生得領域に帰って行ったのだ。
「……『だいっきらい』、か……そうだろうな……」
俺もオマエが嫌いだよ。
でも、それと同じくらい……。
顔にかかる詞織の髪を払い、胸元に顔を寄せる。そして、強く吸いつくと、いくつめになるのかも分からない、欲の印を刻んだ。
* * *