第10章 雨だれのフィナーレ【呪胎戴天/雨後】
「おい、無理すんな」
「ムリじゃない。平気。明日から……頑張る!」
フラリと傾ぐ詞織に手を貸していると、気づけば釘崎が医務室を出ようとしていた。
「野薔薇、どこ行くの?」
「買い物。一回パァッとやって気分変えないとやってらんない」
どうやら、明日からのことを考えて気持ちを切り替えたいのだろう。引きこもってウジウジ悩むタイプでもない。
自分の中で、虎杖の死に向き合おうとしている。
じゃあね、と釘崎も出て行き、伏黒は詞織と取り残された。
「……わたしも、部屋に戻って休む」
「そうか」
手を貸そうとすると、少女は「いい」と拒んだ。
伏黒はその詞織の手を無理やり掴み、ベッドに押し倒す。
「……め、メグ……?」
「俺が好きか?」
揺れる夜色の瞳を見下ろして尋ねた。
夢ではないのだと思いたかった。あの、詞織の生得領域での出来事を。
「俺は、オマエが好きだ……もう、幼なじみには戻りたくない」
今、この瞬間。詞織との関係が壊れてしまうとしても。
幼なじみではなく、一人の男として意識してもらえるのなら……。
ゴクリと唾を呑み込む。詞織の顔がみるみる赤く染まり、伏黒から目を逸らそうと視線を彷徨わせた。
「……覚えてるのか?」
「あ、当たり前だよ。自分の……こと、だから……」
そう言って一度 目を伏せると、詞織は軽く息を吸い込んでうたう。
「筑波嶺の 峰より落つる みなの川 恋ぞつもりて 淵となりぬる……」
最初は小さな想いだったけれど、少しずつ少しずつ積もり……あなたへの恋心となった。
照れたようにはにかむ詞織に、伏黒の胸はギュッとしめつけられ、同時に熱く高鳴った。