第10章 雨だれのフィナーレ【呪胎戴天/雨後】
「個人戦、団体戦って……戦うの⁉ 呪術師同士で⁉」
驚く釘崎に、真希が「あぁ」と不敵に口角を持ち上げる。
「殺す以外なら何をしてもいい呪術合戦だ」
「逆に、殺されないようにミッチリしごいてやるぞ」
シュッシュッとパンダが腕を振ると、釘崎が「ん?」と首を傾げた。
「――っていうか、そんな暇あんの? 人手不足なんでしょ? 呪術師は」
確かにそうだが――それは現在の話だ。
十二月から二月――冬の終わりから春まで――は、寒さなどで気分が落ち込む冬季憂鬱。三月頃から自律神経が乱れ、四月には環境の変化、五月には五月病と、そういった人間の陰気が、初夏に勢いよく呪いとなって現れる。
「ようするに、繁忙期って奴だ」
「年中忙しいってときもあるが、ボチボチ落ち着いてくると思うぜ」
パンダと真希の説明に、詞織と釘崎がふむふむと頷いた。
「で。やるだろ? 仲間が死んだんだもんな」
挑発的な態度で、真希は伏黒たち一年を見る。言葉には出さないものの、狗巻やパンダも同じことを言っているように思えた。
やるのか、やらないのか。
伏黒は――いや、詞織も釘崎も。持ち合わせている答えなど一つしかない。
「「「やる」」」
三人の挑むような表情と声が揃う。
脳裏に過るのは、虎杖の背中。あの眩しい志を引き継ぎ、恥じない力を身につける。そのためなら、何だって――。
「でも、しごきも交流会も、意味ないと思ったら即やめるから」
「同じく」
「わたしも」
釘崎の言葉に、伏黒が同意を示すと、詞織も続いた。
そんな三人に、真希は「ハッ」と鼻で嗤う。
「まぁ、こんくらい生意気な方が、やり甲斐あるわな」
「おかか」
パンダがニヤニヤと頷く。一年全員の同意を得たことで、「じゃあ」と言いつつ手を翻した。
「明日からな。せいぜい身体を休めて体調を整えておけ。病み上がりだからって加減はしねぇぞ」
去って行く真希に続き、狗巻とパンダも手を振って出て行く。
一拍置いて、詞織がもぞもぞと動き、ベッドを降りた。