第3章 はじまりのプレリュード【両面宿儺】
『嬉しいくせに、それを憎まれ口で隠すなんて……相変わらず素直じゃないわね』
「……神ノ原 詩音」
詞織に取り憑く特級過呪怨霊の双子の姉。
何をするつもりか分からず、いつでも動けるように臨戦態勢を取ろうとするが、詩音はグッと紅い瞳を近づけた。
『初めて会った瞬間、詞織に恋に落ちた伏黒 恵。未だに幼なじみの関係から抜け出せない臆病者』
「な……っ⁉」
思わず仰け反る伏黒を、詩音は愉快そうに口角を上げる。
『いいのよ、それで。詞織をこの世で最も愛しているのはあたしで、詞織がこの世で最も愛しているのもあたし。あなたの入る余地なんてこれっぽっちもないんだから』
「いつか、俺がオマエを祓ってやる!」
『へぇ……やれるものならやってみれば?』
耳障りな声で高笑いした詩音は、フッと瞼を閉じた。
次に開かれたときには、見慣れた夜色の瞳だった。
「……ごめん。また詩音が勝手に出て来た」
「別に」
「何か言ってない? ヤなことされなかった?」
質問の答えをする代わりに、伏黒は詞織の頭を乱暴にかき混ぜて気持ちを落ち着けた。柔らかな髪質が手のひらに心地良い。
「大丈夫だ。ほら、行くぞ」
「うん」
再び歩き出し、百葉箱の前で立ち止まった。月明かりが見守る中、カタンと音を立てて扉を開ける。
「あ……」
「な、ない?」
そこへタイミングよく、伏黒のスマートフォンが震えた。
液晶画面には、『五条 悟』の名前が出ている。二人の担任教師だ。