第3章 はじまりのプレリュード【両面宿儺】
【記録 二〇一八年六月 宮城県仙台市 杉沢第三高校】
夜の学校。
闇を纏うように歩く二人の少年と少女――呪術高専に入学したばかりだというのに、すでに二級呪術師としての実力を持つ伏黒 恵と神ノ原 詞織。
不機嫌さを隠そうともせず、伏黒は真っ直ぐに目的の場所へと向かう。
「……百葉箱って、そんなところに特級呪物を保管するとか、馬鹿すぎるでしょ」
「いつだって、無知な人間の愚かな行為の後始末はわたしたちの仕事。少しうんざり」
後ろをテクテクと小走りで駆ける詞織に、伏黒は立ち止まってため息を吐いた。
「だいたい、何でついて来たんだ?」
「ついて来たんじゃない。メグが心配で追いかけてきた」
「心配って……」
特級呪物とはいえ、今回の任務は回収だけ。二級呪術師二人でやる仕事ではないのだ。
夜の闇の中で、月の光を浴びる詞織の姿がはっきりと見える。
人形のような整った顔立ち。白い肌に大きな夜色の瞳。手足は細く、同年代の女子と比べると小柄な体型。
無機質で、どこか儚げな雰囲気の少女だ。
「……イヤな予感がする」
「イヤな予感?」
伏黒はこの少女の"イヤな予感"の的中率を知っている。
伏黒 恵と神ノ原 詞織は、小学校一年の頃からのつき合いだ。本人曰く、耳の奥で不協和音が鳴り響くときは、必ず不吉なことが起きるのだと言う。
「だからって……」
不意に、夜風が強く吹きつけてきた。
『――……本当は嬉しいくせに』
瞬間――詞織の雰囲気が変わる。
夜色の瞳が紅く濁り、闇の中で妖しげに輝いた。