第10章 雨だれのフィナーレ【呪胎戴天/雨後】
「俺は、オマエを助けたことを一度だって後悔したことはない」
伏黒の言葉を聞いて、虎杖が「そっか」と、泣きそうな表情で、くしゃっと笑ったのが見えた。
――待って。
"嫌な予感"がする。
けれど、音となって口から出ることはなかった。
――待って。待って。
声が掠れて、言葉が喉に張りついて、出てこない。
――待って……!
虎杖が何かを言っているように思えたが、詞織の耳には届かなかった。
ゆっくりと、虎杖の身体が傾ぐ。
その光景に、自分と同じ顔をした少女の姿が重なった。
立ち上がって駆け寄ろうとしたが、足に走った激痛で倒れてしまう。
ビシャっと派手に転んだ詞織に、伏黒がこちらを見る。名前を呼ぶ声が、詞織の心の上辺を滑った。
耳の奥で鳴り止まない不協和音に、心臓がドクドクと早鐘を打つ。
それは自分の心臓なのか、片割れの詩音の心臓なのか。
それとも、目の前で雨に打たれる心臓か。
チカチカ、と視界が明滅を繰り返す。
「詞織……!」
伏黒が足早に駆け寄り、詞織を支えた。触れた温もりに反し、詞織の身体はどんどん冷える。
何が起こった? 何でこうなった?
どうして。どうして。どうして。
「……ぁ……っ」
助けて……誰か、助けて……!
ヒュッと喉が鳴る。
「い、いやぁあぁぁあぁぁあぁぁ――――――ッ‼」
耳の奥で鳴り響く耳障りな不協和音をかき消すように。
自分の中の受け入れられない現実を拒絶するように。
詞織は声の限り叫び……そこで意識が途絶えた。
* * *