第10章 雨だれのフィナーレ【呪胎戴天/雨後】
「……え……?」
虎杖の胸に、大きな穴が穿たれていた。
どうして、と視線を彷徨わせて、傍に落ちていたモノを見つけてしまう。
虎杖 悠仁の――心臓。
ただ無防備に雨に晒されている心臓と、虎杖の身体に穿たれた穴に、詞織の目がチカチカとする。
「あ、あぁ……」
――「コロシテヤル!」
耳の奥で蘇る言葉。
詞織の脳裏で、小さな手が自らの胸を貫き、心臓を取り出す。数々の憎悪の言葉を並べ、自身を【呪い】へと変えていく少女の姿。
「あ、ぁ……」
ドロリ、と夜色の瞳を紅く濁らせる、詞織の半身。
唐突に、伏黒が臨戦体勢を解いた。
「…………俺は、オマエを助けた理由に、論理的な思考を持ち合わせていない。危険だとしても、オマエのような善人が死ぬのを見たくなかった」
それなりに迷いはしたが、結局は我儘な感情論。
だが、それでいいのだと、伏黒は語る。
自分は正義の味方ではなく、呪術師なのだから。