第3章 はじまりのプレリュード【両面宿儺】
「あ、そうだ! 詞織は元気にしてますか? もう高専にいますよね? 最近、任務ばっかで全然会えなくて……最後に会ったのっていつだっけ?」
「高専の入学直前に会ったのが最後だよ、姉さん」
神ノ原 詞織。
二ヶ月前、五条が教員を務める【東京都立呪術専門高等学校】――通称・呪術高専に入学した、星也と星良の妹だ。
神ノ原には二組の双子がいる。星也と星良の姉弟、そして詞織とその双子の姉の姉妹。
十年前、詞織は特級過呪怨霊と化した双子の姉に取り憑かれ、特級被呪者となった。
それが原因で秘匿死刑されそうになったが、五条が口添えして助けた。
それ以来、五条は神ノ原兄姉妹(きょうだい)の親代わりをしている。
「詞織は元気だよ。今頃、恵と一緒に仙台かな? 任務が終わったーって言って追いかけてったみたいだから」
窓の外に目をやる五条に倣い、双子も外の景色を流していく。
伏黒 恵。詞織と同学年の男子生徒である。
「任務内容は何ですか?」
「んー、特級呪物の回収」
仙台にある高校の百葉箱に封印されている特級呪物。その回収が恵に振られた任務だ。
「それについて行ったんですか?」
「うん」
星也の言葉に、五条はあっけらかんと返す。
「回収だけなら難しくないわね。学校の百葉箱って場所まで分かってるんだし」
「そうだね。恵の実力は僕たちも知ってるし、詞織も二級呪術師。回収だけなら恵一人で充分。それくらい詞織も分かりそうなものだけど……」
「うん、まぁ……そうだったんだけどね……」
意味深に口角を上げる元担任教師に、双子は同じ仕草で首を傾げた。
* * *