第3章 はじまりのプレリュード【両面宿儺】
「もっと早く……もっと早く、僕たちが到着していたら……もっと早く、僕たちが呪霊を祓えていたら、もしかしたら……一人くらい、助けられたかもしれない……」
「星也」
ポンッと軽く、五条は星也の頭に触れた。
「あんまり背負い込んじゃあいけないよ。君たちが倒せなかったら、特級呪霊は近隣の村を襲い、さらに多くの命を奪っていただろう。君たちは、その多くの人々を救ったんだ」
助けられなかった命を悼む気持ちは大切だ。
けれど、その命に固執しすぎては、助けられる命も助けられなくなる。
本当に、この双子は優しすぎる。
教え子として二人を導いた五条は、心の中でフッと微笑んだ。
特に、星也の優しさは彼にとっての弱点となっている。
たとえ悪人であったとしても、己の命を危険に晒してまで助けようとし、時に自滅の道を行こうとする。
そんな弟のストッパーとなるのが、姉の星良だ。
彼女は危機的状況において、どう行動するべきかを冷静に判断することができる。
仮にそれが非情な選択だったとしても、情に流されないだけの強い精神力の持ち主だ。
バランスの取れた姉弟である。
星也の優しすぎるという弱さを、星良がカバーするのだ。
「……僕も早く、五条先生みたいに強くなりたいです」
「神ノ原一門の当主にそう言ってもらえるのは光栄だ。じゃあ、高専に帰ったら久々に見てあげようか?」
「お願いします」
少し芝居がかったセリフで茶化すと、星也はすかさず頭を下げた。
そんな元教え子が可愛くて、五条はついつい笑ってしまう。