• テキストサイズ

夢幻泡影【呪術廻戦/伏黒 恵オチ】

第8章 トラジェディの幕開け【呪胎戴天】


「メグ」

 固い声音で幼なじみを呼べば、伏黒は黙ってこちらに視線を寄越した。

「クロちゃんなら、野薔薇を見つけて助け出せるよね」

 疑問形ではなく、断定形での確認。黒い玉犬と共に釘崎を助けて。
 そんな幼なじみに、伏黒は怪訝な表情で眉を寄せる。

「どういう意味だ?」

「ユージを連れて、野薔薇を助けて逃げて。わたしがコイツの気を引く」

「バカか⁉︎ そんなことしたら死ぬぞ!」

 肩を掴んで詰め寄る伏黒に、詞織は震える声で、それでも冷静に言葉を紡いだ。

「わたしじゃ……確かに死ぬ、かも……でも! でも、詩音なら……同じ特級の詩音なら、コイツを倒せる!」

 死にたくない。死ぬつもりもない。

 詩音は、詞織以外の世界を呪う呪霊。力の枷を解き放ってしまえば、世界を破壊しようとするだろう。
 だが、手綱は常に詞織の側にある。詩音は"絶対"に自分を裏切らない。それも縛りの一つだ。

「ダメだ。オマエも虎杖も連れて、釘崎も助けて、全員で逃げる」

「それはできない。誰かが残って時間を稼がないと、みんな殺される!」

「だったら!」

 伏黒が叫んだ。これまでに見たことない、険しくも切ない表情で。

「だったら、オマエを連れて行く。オマエ、言ったよな? 今 この場で、オマエが最も優先するのは俺の命だって。俺も同じだ。この場で俺が一番優先したいのはオマエの命だ。俺は――……!」

「――ダメ!」

 詞織は思わず、伏黒の口を塞ぐ。

 ダメだ。それ以上 聞いてしまっては。
 彼が何を言おうとしたのかは全く分からないが、直感的にそう思った。

 決心を鈍らせるな。
 鈍らせるようなことを、言わないで。

「……全員が助かるには、詩音に頼るしかない。ねぇ、メグ! 急いで! 早く、野薔薇を助けて! お願い‼︎」

 縋るように……自分の心を奮い立たせるために、詞織は声を張り上げて伏黒に呼びかけた。
/ 381ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp