第3章 はじまりのプレリュード【両面宿儺】
「あれ? 星也に星良じゃない」
大きく手を上げて注意を引くと、瓜二つの容姿を持つ双子の姉弟は小さく頭を下げた。
「まぁまぁ、座ってよ」
新幹線の自由席に座る男性――五条 悟は、向かい合わせの空席に座るよう促す。双子は少し顔を見合わせ、五条の正面に腰を下ろした。
「お久しぶりです、五条先生」
口を開いたのは、双子の姉の方。
肩につく黒髪に夜色の溌剌とした瞳を瞬かせる。
「そうだね。今、帰りかい?」
「任務が終わって、また別の任務地に向かうところですよ。次は星也とは別のところです」
ふぅん、と相槌を打ち、彼は双子へそれぞれ視線を向けた。
「それにしても、特級呪術師と一級呪術師をセットで派遣なんて、結構大きな案件だったんじゃない?」
「まぁまぁです。最悪なことに、特級呪物を特級呪霊が取り込んだみたいで」
眉を下げて笑う星良に、五条 悟は「あぁ」と全てを納得した。
「つまり、あまり上手くいかなかったんだ?」
「上手くいきましたよ。特級呪霊を祓い、呪物も回収した。上手く……上手くいった……」
そう言いながらも、星也は奥歯を噛み締め、震える拳をギュッと握る。
「星也……星也が悪いんじゃない。星也は充分尽くした。もう手遅れだったんだよ。あたしたちが到着したときには、もう……助けられる人はいなかった……」
己の無力さに胸を痛める弟の肩を、星良は優しく抱いた。
話を聞くと、星良が言いにくそうにしながらも説明をしてくれる。
双子が到着したとき、特級呪霊は村一つを混沌の海に落とし、かろうじて生きていた村人も虫の息だった。
特級呪霊を祓ったときは、双子もほぼ満身創痍で、村人たちを助ける力は残っておらず、そもそも、村人たちも息絶えてしまっていたのだ。