第8章 トラジェディの幕開け【呪胎戴天】
声を掛けるか躊躇する釘崎に気づきながらも、詞織は淡々とした声音で続けた。
「ねぇ、ユージ。人の命って、全然平等じゃないんだよ。この人たちにとって、奪った命が重たくなかったみたいに。誰にでも、優先させたい命があれば、無関心になれる命もある」
家族や恋人、友人……誰にでも、真っ先に助けたい命がある。
自分もそうだ。命を天秤に掛けても迷わないために、優先順位を決めてある。
「今 この場で、わたしが最も優先させるのは……自分の命よりも優先させるのは、メグの命。わたしにとって、メグのいない世界なんて考えられないから」
驚いたように目を丸くし、伏黒は虎杖を解放した。詞織は止めることなく、静かに夜色の瞳を虎杖に向ける。
「次がユージと野薔薇。新しくできた、わたしの友だち。この人たちは最後。わたしはこの人たちより、自分の命を優先する。他人の命を平気で奪えるヤツらに、どうしてわたしたちが命を投げ出さなきゃならないの?」
伏黒も、ときに理不尽な行動をとることがある。けれど、それは彼の優しさの裏返しだ。本人は自分勝手な理屈だというが、相手のことをたくさん考えての行動だと、詞織は理解している。
しかし、こいつらは全く違う。
理不尽の塊。自分勝手に他人を搾取するただの犯罪者。
助けたところで、また同じように誰かの命を奪うに決まっている。