第8章 トラジェディの幕開け【呪胎戴天】
「あと二人の生死を確認しなきゃならん。その遺体は置いていけ」
「振り返れば来た道がなくなってる。後で戻る余裕はねぇだろ」
鋭い伏黒の声音に、虎杖も負けじと反論する。だが、伏黒はさらに強い調子で続けた。
「後にしろじゃねぇ。"置いていけ"って言ったんだ。ただでさえ助けるつもりのない人間を、死体になってまで助ける気は俺にはない」
グッと、虎杖も伏黒の胸倉を掴む。
「どういう意味だ?」
低い声で問い返す虎杖の声は、確かに怒りを孕んでいた。しかし、それは伏黒も同じで、軽蔑するような視線を遺体となった男へ向ける。
「ここは少年院だぞ。全員が犯罪者だ。弱者を虐げ、奪い、理不尽に殺した。そんなヤツら、任務でもなきゃ助けに来たりしない」
グッと言葉を詰まらせた虎杖が、詞織へ視線を向けた。
「おい、詞織! 伏黒を説得してくれ! オマエなら伏黒を……」
「どうして?」
違う場面だったのなら、まだ言葉を尽くして伏黒の説得を試みることもあったかもしれない。けれど、今の詞織に伏黒をどうにかする意見は持ち合わせていなかった。
「メグの言ってることは正しい。呪術師には現場のあらゆる情報が事前に提示される。その人はね、下校中の女の子を撥ねたの。それも、二度目の無免許運転で」
他の四人も同じだ。
金欲しさに老人たちを騙して何人も自殺に追い込んだ詐欺師。
快楽による連続放火魔、イジメがエスカレートして殺人。
大通りで無差別に人を殺傷した通り魔。
五人とも取り調べでの反省の色はなし。それだけじゃない。通り魔と放火魔、詐欺師は前科二犯以上を持つ凶悪犯だ。
「この人たちは、生きていたってまた同じことを繰り返す。その……岡崎って人もね」
本当に罪を悔いていたのならば、無免許運転をするはずはない。繰り返したということは、最初から後悔などしていなかったのだ。
次は大丈夫、見つからなければ……そんなことを思っていたのかは知らないが……その結果、幼い命を奪うこととなった。