第8章 トラジェディの幕開け【呪胎戴天】
「ドアがなくなってる!」
「何で⁉︎ 今 ここから入って来たわよね⁉︎」
完全にパニックに陥った虎杖と釘崎が、「どうしよう」と奇妙な踊りを始める。
なぜ示し合わせたわけでもない即興の踊りが揃えられるのか不思議だ。こういった状況のときに踊るようなものがあるのだろうか。
そんな二人を他所に、伏黒が玉犬の首に腕を回して撫でながら、「いけるか?」と尋ねる。詞織も膝を折って玉犬と目線を合わせた。
頷く玉犬を確認し、虎杖と釘崎へ「大丈夫だ」と声を掛けた。
「コイツが出入口の匂いを覚えている」
瞬間、二人が「あらまぁ!」と目を輝かせる。
「わしゃしゃしゃしゃしゃしゃ」
「ジャーキーよ! ありったけのジャーキーを持ってきて!」
「ダメ。シロちゃんをそこらのワンちゃんみたいに扱わないで。変なモノ食べさせたら絶交だから!」
撫で回す虎杖から玉犬を取り上げ、守るように太く白い毛並みの首に腕を回した。
全く、油断も隙もあったモノではない。
玉犬たちはそこらの犬とは別格。伏黒の式神のスーパーワンちゃんなのだから。こうなったら、自分が守ってやらねば。
「オマエら、緊張感!」
呆れて怒鳴る伏黒。
あ、しまった。つい気が緩んでしまったようだ。
ごめん、と反省しようとすると、虎杖が屈託のない笑顔で伏黒を見上げた。
「やっぱ頼りになるな、伏黒は。オマエのおかげで人が助かるし、俺も助けられる」
虎杖の言葉に、伏黒は何も返さなかった。
きっと、返す言葉が見つからなかったのだろう。
少なくとも彼は、虎杖たちはともかく、今回の受刑者五人を助けたいと思っていない。下手をすれば切り捨てるつもりだ。
だから、本気で受刑者たちを助けようと思っている虎杖の笑顔に、応える言葉を持ち合わせていなかったのではないかと思う。
「……進もう」
促す伏黒に気を引き締めて頷き、詞織たちも後に続いた。
* * *