第8章 トラジェディの幕開け【呪胎戴天】
「呪霊が近づいたらコイツが教えてくれる」
「よろしくね、シロちゃん」
玉犬は可愛くてカッコよくて強くて優秀。まるで伏黒のようだ。
あ、伏黒はあまり可愛くはならないか。
どちらにしても、伏黒の式神たちはみんな好き。
ダメだ。緊張感を持たなければならないのに、玉犬を見るとつい和んでしまう。
「行くぞ」
伏黒が警戒しつつ、ドアを開けた。重たく軋んだ音を立てて開いたドアの向こう側――そこには、二階建ての建物のはずなのに、それ以上の広い空間が広がっていた。
鉄パイプや機械の配線が幾重にも絡まり、建物の中に建物を入れ込んだような、デタラメで歪つな光景。
「どうなってんだ⁉︎」
「おおお落ち着け! メゾネットよ!」
動揺する虎杖と釘崎に、詞織と伏黒は揃って息を呑む。
「呪力による生得領域の展開。こんな大きなものは初めて見た……!」
伏黒の言葉に、詞織はグッと歯噛みした。
万が一 呪霊と遭遇したら、自身の領域展開に賭けるかとも思ったが、無理そうだ。この呪力の生得領域に打ち勝てる自信がない。
「受刑者の生存は絶望的。確認して早く帰らないと、わたしたちも危ない」
「そうだな」
――嫌な予感がする。
本当に、この任務は自分たちだけで大丈夫なのだろうか。
耳の奥で鳴り響く不協和音に、詞織は固唾を飲んだ。
「……ドアは⁉︎」
ハッとした表情で、伏黒が唐突に振り返った。その動作に促されるように、詞織たちも後ろを振り返る。
道を塞ぐようにして、何十本何百本もの配管が立ち塞がっていた。退路を断たれたのだ。