第8章 トラジェディの幕開け【呪胎戴天】
「……助けるぞ」
そう言った虎杖の言葉に、詞織は頷くことができなかった。
否、意図して頷かなかったのだ。
なぜなら、ここは刑務所。
詞織が嫌悪する理不尽の巣窟だ。呪いも発生しやすい。
この少年刑務所にいる受刑者のうち、本当の意味で己の罪を悔いているのは、いったいどれくらいいるだろうか。
偏見であると自覚はあるが、そんな人間はほんの一握りだろう。
反省しているふりをして大人を騙して、できるだけ早く出たいと考えているヤツの方が多いに決まっている。
少なくとも、取り残された受刑者に反省している人間はいなかった。
呪術師には、現場のあらゆる情報が事前に開示される。
虎杖と釘崎は確認していないようだが、詞織は伏黒と提示された情報を閲覧していた。
全員が前科二犯以上を持つ、どうしようもないクズだった。
伏黒が神妙な顔つきをしているのも、助けられなくても問題ないと思っているからだろう。
詞織も同じだ。受刑者たちよりも自分たちの命を優先するつもりでいる。
伊地知について行き、詞織たち四人は少年院の第二舎前まで来た。
「帳を下ろします、お気をつけて――【闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ払え】……」
伊地知の詠唱に伴って、少年院周辺が暗い幕のようなもので覆われていく。
「夜になってく!」
「アンタは本当に無知ね。帳――外から私たちを隠す結界よ」
「今回は住宅街が近いからな」
「ユージはまず、呪術師についていっぱい勉強しないと」
釘崎、伏黒、詞織の言葉に、虎杖はげんなりとした表情を見せた。
そんな虎杖を気に留めることなく、伏黒は手を組み合わせて犬の形を作る。
「【玉犬】」
ズルリと、伏黒の影から白い犬が現れた。