第7章 ジョコーソに更ける夜
「詞織、大丈夫か?」
そう呼びかけて、伏黒は「しまった」と思った。現在は詞織ではなく詩音だったのだ。
だが、そんな心配はなかったようで、瞼を持ち上げた瞳は、吸い込まれそうな夜の色を湛えていた。
「大丈夫……みんなは平気? だいぶ、詩音が興奮してたみたいで、すぐに代われなかった」
ごめんね、と謝る詞織に、伏黒はホッと息を吐く。
「いや……俺たちも別に何もないけど……結構ビックリした」
「あんたも相当ヤバいもん抱えてるわね」
驚きと呆れを含む虎杖と釘崎の言葉に、詞織はコテンッと首を傾げた。
「そんなに……? 特級呪霊ではあるけど、ユージの宿儺ほど強くはない。全力でも宿儺の指 五本分くらいの強さしかないから」
「「そういう問題じゃない!」」
二人に真っ向から否定され、少女はますます目をキョトンとさせる。
全く意味が伝わっていないようだ。
虎杖と釘崎が言いたいことは分かる。
詩音の深く歪んだ愛情を目の当たりにすれば、そう言いたくもなるだろう。
詞織の命と天秤にかけられた反対側を、迷うことなく破壊できるほどの強い愛情。
たとえそれが他人の命でも、自分の命でも、世界だったとしても躊躇うことをしない。
いっそ羨ましさすら感じる。