第59章 終わらないドミナント【渋谷事変/堅白】
そのやり取りの間に、夏油が地面へ手を翳す。
――【無為転変】‼
地面に巨大な紋様が眩く怪しげに輝いたかと思うと、上空へと浮かび上がった。
「天元の結界……じゃない! これは――術式の遠隔操作⁉」
驚愕する九十九に、夏油が虎杖へ静かに視線を向ける。
「礼を言うよ、虎杖 悠仁。【呪霊操術】で取り込んだ呪霊の術式の精度は、取り込んだ時点でその成長を止める。君との戦いで真人は成長した。本当は漏瑚も欲しかったけど、まぁ 仕方ないね」
「何をした?」
低い声音で九十九が尋ねると、夏油が口元に笑みを浮かべた。
「マーキング済の二種類の非術師に、遠隔で【無為転変】を施した」
虎杖 悠仁のように呪物を取り込ませた者。
吉野 順平のように、術式を所持しているが脳の構造が非術師の者。
「それぞれの脳を術師の形に整えたんだ。前者は器としての強度を、後者は術式を発揮する仕様を手に入れた。そして――……」
夏油は懐から結った細長い呪符を解いて見せた。
「……今、その呪物たちの封印を解いた。マーキングの際、私の呪力に当てられて寝たきりになった者もいたが、じきに目を覚ますだろう。彼らにはこれから、呪力への理解を深めるため、殺し合いをしてもらう」
夏油の厳選した子や呪物たち――それは、千人の虎杖 悠仁が悪意を持って放たれたこととほぼ同義らしい。
「千人か……控え目だな。それに、人間の理性をナメすぎだ。力を与えただけで人々が殺し合いを始めるとでも?」
「物事には順序があるのさ。その程度の仕込みを私が怠るわけないだろう。質問が軽くなってきているよ」
ニッコォと九十九は作った笑みを張りつけると、不意に振り返ってきた。
「ムカつくから皆でアイツ ボコろう」
「いや、今 動けないんだけど……」
そのとき、突如 左肩を覆っていた氷が水のように溶ける。
同時に、虎杖たちだけでなく、背後にまで壁のように聳え立っていた氷も溶けた。夏油の隣では、ずっと沈黙を守っていた裏梅が膝を折り、荒く呼吸を繰り返す。