第59章 終わらないドミナント【渋谷事変/堅白】
「無理するなよ。疲れてるだろ?」
「だから 何だ。それが、弟の前で命を張らない理由になるか?」
受け止められた拳にグッと力を入れる。
「ねぇ、虎杖クン。一応 聞くけど、他人だよね?」
「他人どころか一回 殺されかけてるよ」
「悠仁。東堂といい、ヤバいフェロモンでも出てるんじゃないか?」
垂水やパンダと話しながら、虎杖は破れて血だらけになり、中途半端に残った学ランを脱ぎ捨てた。顔についた血も乱雑に拭い、視界を確保する。
「だが、おかげで場が乱れた。この機に乗じるぞ」
「まだ二機 残ってる俺が前に出る。全員でかかれば隙くらいできるだろ」
「数なら“オレ”の方が上でしょ。アイツに役立たず認定されたままとか我慢ならないし」
パンダの後に続く垂水に、「まだ根に持ってんの?」と桃が呆れた声を出しながら箒で空へ飛び上がった。
「何としても【獄門彊】を奪い返す!」
加茂の言葉を皮切りに全員が夏油へ向かう。
「【水命示現法(すいめいしげんほう)『シャチ』】――暴れてこい」
水の輪から召喚された二体の【シャチ】が空気を泳いで夏油に襲いかかった。さらにパンダが拳に呪力を乗せて構える。
「【激震掌(ドラミングビート)】!」
そのとき――全員が背筋を震え上がらせた。それは戦う者としての生存本能であり、身体の芯まで冷え切ってしまいそうな物理的な寒気。
「――【氷凝(ひこり)呪法『霜風』】」
裏梅が手のひらに吹き出した息が氷となり、その場にいた全員を氷漬けにする。垂水も氷漬けにされているが、一歩早く術式を解き、【シャチ】の破壊だけは免れた。
下手に動けば身体が割れてしまうほどのハイレベルな氷の術式に、誰一人として身動きが取れない。