第58章 アジタートに昇華する【渋谷事変】
【黒閃】を狙って出せる術師はいない。
だが、今の虎杖には、「狙って出している」と思わせるだけの凄みがある。
真人は虎杖の拳を受け止め、躱しながらニヤリと口角を上げた。
虎杖は【黒閃】を打つ。無策で挑めば祓われる。
しかし、すでに対策を済みだ。
真人は左顔面から腕にかけてを元の人間態へ戻したことで、虎杖の動きが一瞬止まる。
サイズ変形でミートをずらし、【遍殺即位体】を解いた部分を呪力で保護。拳に呪力を集中させている虎杖の首をカウンターで落とす。
狙い通り、虎杖の拳が人間態へ戻った左肩を打つも、呪力で保護しているためダメージは然程ない。真人の拳は虎杖の首を狙って放たれた。同時にジャコッとブレードを出す。
――俺の、勝ちだ!
瞬間――ドッと左肩が打たれた衝撃を受けた。
なんだ……時間差で二重の衝撃……⁉
動きが鈍ったことで、虎杖の首を狙って放たれた拳を虎杖に躱され、思わず舌打ちが出る。
――【逕庭拳(けいていけん)】は虎杖 悠仁の悪癖から生まれ、呪力操作の精度と引き換えに失った技。だが、脹相戦での再発により、虎杖は【逕庭拳】をモノにしていた。
虎杖の目つきが変わる。
「呪霊よ、オマエが知らんはずもあるまい」
ブレードを出して再び虎杖に迫ろうとしたところへ、あの男の声が耳に届いた。
「腕なんて飾りさ。拍手とは――魂の喝采‼」
崖上に現れた体格のいい一つ結びの男――東堂 葵が、失われた腕の先と手のひらをぶつける。真人は慌てて身構えた。振るったブレードが宙を切る。
――入れ換わって、ない……?