第58章 アジタートに昇華する【渋谷事変】
その一瞬の思考停止に囚われる中、パンッと乾いた音と右手に感じた衝撃で我に返った。一拍遅れて、東堂が残された右掌で自分の手を叩いたのだと理解する。
気がつけば目の前に虎杖が現れた。東堂の入れ換えの術式だ。
――しまった!
サッと青ざめるも……遅い。
――【黒閃】‼
黒い火花が爆ぜ、真人の身体は吹き飛んだ。
「一瞬でも触れたんだ。これで済んだだけでも奇蹟だな」
倒れた東堂が焼け爛れた己の右手を見て小さく呟く声が耳に届く。
「後は任せてくれ、東堂! ありがとう! 東堂‼」
迫る虎杖に、真人は身体を起こし、ストックしている改造人間を取り出した。
『――【多重魂「幾魂異性体」】!』
改造人間が弾丸の如き速さで幾度も拳を繰り出す。その拳を、虎杖は全て受け止めた。
それを一歩 離れた位置で静観しながら、真人は内心で『クソッ!』悪態を吐く。
最後までふざけやがって、あのゴリラ!
なんだったんだ、あの呪物並みにイカレた物体は……アレのせいで【黒閃】をモロに食らってしまったではないか。
だが、ついに掴んだ――己の、魂の本質! 本当の形を‼
虎杖の蹴りにより、【幾魂異性体】と成った改造人間が倒される。だが、真人はそれに構うことなく術式を発動した。
――【無為転変】
真人の異様な気配に、虎杖が息を呑む。
まるで脱皮するように、真人は過去の自分を脱ぎ捨て、己の魂の形を真の姿へと作り変えた。
――【遍殺即位体(へんさつそくいたい)】
人に近かったときとは一変、異形のような真人の姿に虎杖が目を見開く。
『ハッピーバースデイってヤツさ、虎杖』
グッと眉根を寄せると、虎杖がこちらを見据え、静かに深く息を吐き出した。
* * *