第7章 ジョコーソに更ける夜
「一つだけ……話しておきたいことがある」
そう言って声のトーンを少し下げ、詞織は手に持っていた紙コップを置いた。
「ユージが、特級呪物を呑み込んで、今 身体に両面宿儺を宿しているのは知ってると思う」
「あぁ、そうだな」
虎杖が首の後ろを掻きながら頷く。
詞織の前置きに、少女が何を話そうとしているのか察し、伏黒は手を伸ばした。
細い肩に触れると、詞織は「必要なことだと思うから」と小さく返して、やんわりと伏黒の手を払う。
「何なの?」
怪訝な表情をする釘崎。
詞織は深く呼吸を繰り返し、淡々と切り出した。
「【神ノ原の惨劇】……ユージは知らないと思うから簡単に説明するけど、わたしが生まれた神ノ原一門は、御三家――呪術界でも特に強い権力を持つ三家――に次ぐ力を持っていたの。それが十年前、一門の親族・門下生も含めて、一夜にして全員が死んだ」
「全員⁉︎ それって……」
全員。神ノ原の姓を持つ親族は二十人強、門下生は二百人近くいた。それが、一夜にして息絶えたのだ。
「呪いとか? 呪霊に襲われて……?」
「違う」
不意に、詞織の纏う雰囲気が変わる。
ふふ、と小さく笑う妖艶な声音がしたかと思うと、詞織の夜色の瞳が赤く染まった。夜の泉に一滴の血を垂らしたように。
「詞織……どうしたんだ?」
伸ばされた虎杖の手を、少女の小さな手がパンッと払った。