第57章 導く想いのコン・センティメント【渋谷事変】
「つまんねぇこと聞いてんじゃねぇよ、加茂。ねぇ、死に損なったってことは、メカ丸のヤツをぶん殴れるってことだよね?」
コイツ、完全にキレているな。
垂水がキレているのを見るのは初めてではないが、このレベルを見るのは初めてだ。
この勢いのまま殴ったら、メカ丸が本当に死んでしまう。
「ちょっと、垂水先輩。そんなヘコむほど蹴らないでくれる? 新幹線が壊れちゃうわ」
気にするところが違うだろ。
そこまで考えて、垂水や真依の台詞にいちいちツッコんでいてはキリがないことに気づく。
「降りんだから別にいいでしょ。渋谷に行かないポンコツに用はねぇし」
それは新幹線がポンコツなのではなく、単純に渋谷が封鎖されているからだ。
だが、言っていることには一理ある。まだ かなり距離はあるが、このままここにいても意味はない。
不意に自動ドアを潜り、出入口から座席シートがある方へ移動した垂水は、三輪のところで足を止めた。
そこで、垂水は大きく息を吸い込み、「ふー……」と深く吐き出した。
「……いつまで泣いてんの、“三輪ちゃん”」
ビクッと肩を跳ねさせた三輪が、いつもの柔らかさと軽薄さを混ぜたような垂水の微笑を涙に濡れた瞳で見上げる。
どうやら 無理やり怒りを鎮めたようだ。泣いている女に当たるほど非情ではないらしい。
「ほら、行くよ。言いたいことがあるなら、直接 会って全部 言ってやればいい」
垂水の言葉に、三輪は唇を噛みしめ、涙を拭った。
「はい……っ!」
「その前にボクが殴るけど」
垂水、せっかくいいことを言ったんだから、そこは空気を読めよ。
今一つ締まらない空気に、加茂はため息を吐くしかなかった。
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