第56章 伸ばした手に掴むデテルミナート【渋谷事変】
『しょーもない なんてヒドイなぁ。別に順平じゃなくても良かったんだけどさ。たまたま順平が俺を見つけて、その上 虎杖と出会って仲良くなった。ただそれだけ。“呪う”なら、虎杖と出会った自分の運命を“呪い”なよ。それか、【宿儺の器】になった虎杖 悠仁』
アイツが【宿儺の指】を喰って受肉しなきゃ、こんな事態は起きなかった。順平の母親も死ななかったかもね。
そう真人は下卑た笑みを浮かべながら続けた。
『そう考えると……』
――これって、全部“虎杖 悠仁のせい”じゃない?
「テメェ……ッ!」
「――もういいッ‼」
順平の叫びに、金槌を持って殴りかかろうとする釘崎が動きを止めた。
「……オマエは僕に言った。人に心はない。喜怒哀楽は魂の代謝。魂は肉体と同じで何も特別じゃない。だから、命に価値や重さなんてないって……でも……っ! 母さんが死んだとき、僕は悲しかった‼」
苦しくて……自分が自分でなくなるくらい辛かった。
絶望が本当にあることを知った。
同級生にイジメられたことや学校に居場所がないことなど、絶望でもなんでもない。
底なし沼のようにどこまでも堕ちていく感覚。
「それは僕にとって、母さんの命が重かったからだ! オマエにとっては取るに足らない無価値な存在だったかもしれない! それでも、僕にとっては何にも替えがたい、価値あるものだったんだよ‼」
脳裏に母が死んだ日のことが過ぎり、順平の頬を涙が伝う。
誰を頼ればいいのか分からず、真人を呼んで泣き縋った。そして、真人の言葉を信じて復讐を誓い、少しだけ冷静さを取り戻した頭で、腰から下を失った母の遺体を寝室のベッドへ運んで氷嚢を敷き詰めた――あの日のことを。
自分の全てを肯定してくれる真人といるのは楽だった。
嫌いな人間がたくさんいて、居場所は母のいる家があればそれだけでよかった。
気味の悪い理想論を押しつけてくる教師、意味もなく攻撃してくる周りの連中、見て見ぬフリをするヤツら、その全てが敵だった。死ねばいいと思っていた。
それを踏み止まれていたのは、単に臆病な自分と――母の存在だった。