第54章 残虐なるヴィルトゥオーゾ【渋谷事変】
「神ノ原 星也 特級術師だな?」
暗闇で呼び止められ、そちらに意識を向ける。高専の制服を着た、顔に傷のある少年だ。
「……君は?」
「京都校二年、与 幸吉」
星良が助けた学生か。呪詛師側と通じ、こちらの情報を流していたと聞いている。今は夜蛾の監視下に置かれているはずだから、ここにいるのも不思議なことではないが。
「何の用かな?」
「さっき……宿儺は何をした?」
ピタリと足を止める。
「渋谷の一角――約一五〇メートル近くが更地になり、一般人と術師 合わせて数百人の命を奪い、狗巻の片腕を落とした。だから 聞いている。宿儺は何をした?」
ここにも宿儺の……いや、宿儺だけに責任を負わせるのは卑怯だ。
自分の弱さが原因だとさっき言ったばかりだろ。宿儺の力を借りなければ事態を収められなかった。その弱さのせいで死者が大勢出て、狗巻も重傷を負った。
「……棘は無事なのか?」
「命はな。メカ丸1号が負傷した狗巻と切断された腕をここへ運び、家入 硝子の判断で病院に搬送された。メカ丸1号は破損が酷くてもう動かせない。ここへ来る途中ですでに限界だったのを、無理やり動かしていたんだ」
「……そうか。腕の回復は?」
「無理だ。家入 硝子の【反転術式】でも、現代医学でもな。だが……俺の身体を復元した神ノ原 星良ならあるいは……」
星良の【反転術式】なら、欠損部位の【復元】が可能だ。しかし、【復元】の呪力消費は単純計算で【修復】の五倍。損失から時間が掛かりすぎるとそこから消費量はさらに増え、実質 不可能になる。
星良の呪力も無限ではない。身体の一部が欠損しているとはいえ 命の危険がないとなると、優先順位も下がるだろう。特に狗巻の場合、術式の発動だけなら腕が必要ない。
「すまなかったね、与くん。棘にも同じように伝えてくれ」
急いでいるんだ、と与に背中を向けて歩き出した。
総監部の呼び出しの理由は察しがついている。
――それでも、受け入れるにはあまりにも……。
無力感と苛立ちに奥歯を噛み締め、星也は乙骨の元へと向かうべく、深い闇の中へと進んだ。
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