第54章 残虐なるヴィルトゥオーゾ【渋谷事変】
「ゆっくり休んで。無茶をするのは仕方がないけど、死ぬのだけはナシだ。分かったね」
繰り返し念を押すと、「兄さまも同じだから」と見つめ返してきた。
――『オマエたちにはやってもらわねばならんことがある』
何かを企んでいるのは間違いない。
そして、その企みに自分や伏黒、それと……。
――『この小娘には貸しがあるからな。返してもらうまで死んでもらっては困る』
詞織……いや、どちらかというと詩音の方。
虎杖が死亡した少年院での任務で言葉を交わしている可能性が高いのは彼女だ。詩音はあのとき、宿儺と何を話した?
いや、考えたところで出てくるのは推測だけだ。
――守ってみせる。詞織も詩音も、恵も……。
またそんな顔して、と呆れる双子の姉の存在を記憶の中で感じ、内心で苦笑しながら詞織と伏黒を残してテントの外へ出る。すると、そこは妙に慌ただしかった。
「学長、何の騒ぎですか?」
近くにいた夜蛾に尋ねると、彼は顔を俯けて頭を抱えた。
「星良からの連絡でな。真希と禪院のご当主がやられたらしい。真希はどうにかなりそうだが、禪院のご当主は死亡。今、星良の指示で与の傀儡が二人をこちらへ運んでいる。硝子も治療の準備と提携先の病院への搬送準備をしているところだ」
確かに、【反転術式】も万能ではないし、家入の腕がどれだけよくても、限られた設備では限界もある。
そうですか、とありきたりな返ししかできず、星也は頭を下げてその場を後にした。
禪院家の当主が死亡したとなれば、相伝の術式を継いでいる伏黒が巻き込まれるのは避けられないだろう。
何か、力になれることがあればいいのだが……。