第54章 残虐なるヴィルトゥオーゾ【渋谷事変】
「……なんで……」
「理由は分からない」
詞織の疑問に首を振る。
虎杖が何もなく宿儺に意識を奪われるとは考えにくい。
可能性があるとするなら、指を喰らった、もしくは喰らわされたか。
だが、一本や二本なら、意識を奪われることはないだろう。なら、すぐに適応できないだけの数を取り込まされたと考えるべきか。
ただの推測でしかないが……もしこれが推測ではなく事実なら、相当数を取り込まされていることだろう。だったら、事態はかなり深刻だ。
「星也さん、宿儺は今……?」
「所在不明。けど、宿儺の話から察するに、じきに悠仁の意識は戻る」
星也の言葉に、二人が安堵の表情を見せるも、すぐに険しい顔で俯く。
「……俺たちにその話をするってことは、大きな被害が出てるってことですよね……どれくらいですか?」
「正確には分からないけど、何十人なんてレベルじゃない。百単位で死者が出ている」
詞織が小さく息を呑み、伏黒が奥歯を噛み締める音が響いた。
「……アレを倒したのも宿儺ですか?」
「あぁ。僕じゃ倒せなかった。すまない」
躊躇いなく即答する。
元々 星也は、自身の術式や実力を過信していない。
弱いことへの恥ずかしさなど持ち合わせていなかった。
たとえ相手が詞織や伏黒でも。
そもそも、【魔虚羅】は大昔に御前試合で当時の禪院家当主に呼び出され、【六眼】持ちの【無下限呪術師】が倒せなかったのだ。若輩者の自分が敵うはずもないというわけか。
「そのせいで大勢 死んだってことですね」
「それだけが宿儺の被害じゃないけど、それもある」
正しい現実を見せるために、星也は気を遣うことなく、言葉も飾らず、ただありのままを伝える。
「メグ……アレって何⁉︎ ねぇ、何か知ってるの⁉︎ だから さっき、あんなに謝ってたの⁉︎ ねぇ……っ!」
詞織に服を掴まれて揺さぶられるも、伏黒が口を開くことはなかった。
「なんで教えてくれないの⁉︎ わたしが気絶してるときの話⁉︎ また わたしが弱かったせいでユージが……っ‼︎」
「――違う‼︎」
伏黒が詞織の肩を掴んで叫ぶ。