第54章 残虐なるヴィルトゥオーゾ【渋谷事変】
『僕もそう思ってるんですけど……その五条先生と虎杖くんのことで話があると』
乙骨の話では、宿儺は109前での【魔虚羅】との戦いの前にも特級と戦っており、渋谷の一角を火の海に変えたらしい。
「……そうか。分かった」
舌打ちしたい衝動を堪え、星也は短く応じた。
『すみません、星也さん』
「憂太が謝ることじゃない。じゃあ、また後で」
通話を切ってテントへ戻ると、詞織も目を覚ましていた。伏黒が詞織を抱きしめ、「ごめん」と譫言のように繰り返している。
「メグ……理由も分かんないまま謝られても困る。許すことも許さないこともできない」
「許してくれなくていい。それだけのことを、俺はオマエにした」
頑なに理由を語らず謝罪する伏黒に、傍目からは分からないだろうが、星也には詞織が戸惑っているのだと充分に分かった。
「星也、どうした?」
「総監部から呼び出しです」
夜蛾に答えると、「アンタも大変だね」と辟易した様子で家入も声をかけてくる。
「詞織も気がついたか。よかった」
夜色の髪を撫でて詞織を抱きしめ、妹の存在を確認した。背中に手を回してすり寄る可愛い妹を離して顔を覗き込むと、柔らかな微笑を浮かべてくれる。
「詞織も恵も、しっかり休むんだ。このまま渋谷に戻ってもまともに戦えないからね」
「心配しなくても、二人はこの後 病院行きだ。掛かっていた【反転術式】は応急処置程度だからな。星也、お前は?」
「僕は問題ありません。自分でどうにかできます」
そうか、と頷いて家入が苦笑した。だが、二人と分かれる前に話しておくことがある。
話すかどうか迷ったが……これは虎杖が一人で背負うには重すぎて、同時に一人で背負うことでもない。
「学長、家入さん。少し、三人にしてもらえませんか?」
詞織と伏黒が怪訝な表情をする。夜蛾と家入は互いに顔を見合わせ、「分かった」と了承して外へ出た。それを確認し、二人へ向き直る。
「呼び出しがあるから手短に話す。悠仁が宿儺に意識を奪われた」
そう言った途端、二人の顔が青ざめた。