第54章 残虐なるヴィルトゥオーゾ【渋谷事変】
「え……星也、さん……?」
「……生きてる……無事でよかった……ッ!」
抱きしめた伏黒の温もりに、ようやく恐怖が追いついてくる。
――生きている――詞織も、恵も……。
死んでいた。間違いなく。
宿儺が間に合わなければ、今この場に自分たちはいなかった。
特級呪術師なんて大層な肩書をもらっても……結局 自分はまだその程度。
最強の呪術師である五条や、【呪いの王】両面宿儺の足元にも及ばない。
「星也さん……すみませんでした……詞織まで巻き込んで……」
「違う、そうじゃない……僕にとっては、恵……君だって詞織と同じくらい、失いたくない大事な家族だ」
星良がいて、詞織がいて、伏黒がいて、そして――津美紀がいる。そんな ささやかで幸せな日常を守ること。
それだけが、星也が戦い続けていられる理由だった。
「……だから……頼むから、死なないでくれ……」
伏黒の顔を両手で包み、視線を固定させる。目を瞬かせる伏黒から力が抜け、「はい」と柔らかく眉を下げた。
そこへ、星也のスマホが着信を告げる。乙骨からだ。一言 断り、星也はテントの外へ出た。
「……もしもし」
『星也さん、よかった。電話が通じるってことは、今【帳】の外ってことですよね? 話して平気ですか?』
「あぁ」
渋谷がどういう状況かは乙骨も星也と同じ資料を読んでいる。
手が離せない状況――電波が遮断されている【帳】内や戦闘中を考慮しての確認だろう。どちらの場合も電話に出ることはできないが。
『総監部から呼び出しがあって……星也さんも一緒に来るようにって』
「総監部が?」
思わず眉を寄せる。呼び出しなどしている場合ではないだろう。
「後にしろと言ってくれ」
五条の封印、そして一時的とはいえ【両面宿儺】が虎杖の意識を乗っ取り、渋谷の区画を更地にした。状況は最悪だ。
一秒でも早く戦力を渋谷に動員し、五条の封印を解かなければ、事態を好転させることはできない。