第54章 残虐なるヴィルトゥオーゾ【渋谷事変】
「硝子、すぐに治療を」
夜蛾に肩を借り、詞織と伏黒を夜蛾の【呪骸】が運んでくれた。そのまま治療用のテントへ連れられ、二人はベッドへ、星也は椅子に座らされる。
「三人とも【反転術式】を使っているな。だが、オマエの呪力でも、詞織のでも、星良のでもない」
「星也、何があった……?」
星也、伏黒、詞織と順番に家入が容体を確認する中で夜蛾が尋ねてくるが、星也は沈黙した。
「言えないことか?」
「言いたくないことです」
「理由は?」
「個人的な理由です」
キッパリと言い切る。黙っていたところで分かることだが、言えるはずもなかった。虎杖が宿儺に乗っ取られたなど……。
だが、先ほど『しばらく起きない』と断言したのに対し、今は『どうだろうな』とはぐらかした。目覚めが近いのかと思うと少しホッとする。
そこへ、伏黒の呻く声がやけに響き、星也は腰を上げた。
「恵!」
慌てて立ち上がり、伏黒のベッドの脇に立つ。肘をついて身体を起こす伏黒は額に手を当てた。
「生きてる……なんで……?」
小さく疑問を口にし、伏黒がこちらを見上げてくる。
「星也さ……」
伏黒を遮り、星也は「恵」と静かに名前を呼んだ。
「……自分が何をしたか分かっているね?」
「はい」
隣のベッドで眠る詞織に一度 視線を向け、伏黒は両手の拳を握って震わせた。
「なら、歯を食いしばって」
星也の言葉に伏黒は瞼を閉じると、言い訳をすることなく、言われた通りに歯を食いしばる。
そんな どこか頼りなくも見える“弟”を、星也は力いっぱい抱きしめた。