第54章 残虐なるヴィルトゥオーゾ【渋谷事変】
ゆったりとした足取りで宿儺が戻ってきた。虎杖と同じ顔なのに、纏う空気は彼とは全く違っていて、気迫や存在感だけで別人だと分かってしまう。
「……なんで……本当にあのやり方しかなかったのか……?」
更地と化した地上に、星也は声を震わせた。
『さぁな』
近づいてくる宿儺に注意を向けたまま、星也は視線だけ背後に向ける。
宿儺が来てくれなかったら確実に負けていた。詞織と伏黒の死は確定し、自分も命を落としていたことだろう。
更地を見つめ、星也は重たく息を吐き出した。
「……ありがとう。助かった」
星也の礼に、彼は面食らったように目を丸くする。
『礼を言われるとは思わなかったな』
「……お前のやったことは許せないし、僕はお前のことが嫌いだ。けど、それは礼を言わないことの理由にはならない。どんなに許せなくても、僕たちがお前に助けられたのは事実だ」
【反転術式】を使ってくれたときは警戒心が勝っていて言いそびれてしまったが、どんな相手だろうと謝罪や礼を伝えるのは常識だ。
星也のまっすぐな視線に、宿儺は微かに表情を和らげる。
『あまり愛いことを言ってくれるな。殺したくなる』
何言ってんだ、コイツ。
冷めた視線を向けるも、どういうわけか宿儺はご満悦の様子だ。
しかし一転、宿儺が膝を折る。そして、伏黒が抱える詞織の頬に手を触れた。
『それにしても……弱いというのは大変だな。この程度で瀕死になるとは』
多分に呆れを含んでそう言うと、宿儺が急にこちらに手を伸ばしてくる。そして、懐に手を突っ込んだ。
「離せ……!」
突き放すと、宿儺の手には呪符が握られている。