第54章 残虐なるヴィルトゥオーゾ【渋谷事変】
「……悠仁はどうした?」
『顔を合わせるのは初めてだな。ヤツならしばらく起きん』
グッと奥歯を噛み締め、絶望した表情をしているが、その夜色の瞳から闘志は消えていない。
まだ命を燃やすか……【領域展開】を使った後で、まともに術式は使えないだろうに。万に一つも勝機など感じていないくせに、必死で戦略を練っている。
『いい表情だな。なかなかにそそる』
星也に近づき、その顎を掴んで上向かせ、深い夜のような美しい瞳を覗き込んだ。そして、血を流す傷口に触れる。
「……っ⁉︎」
反射的に身を引こうとする星也の腕を引いて抱き寄せ、宿儺は【反転術式】をかけた。
「な……っ⁉︎」
星也の傷口が塞がったのを確認した宿儺は血に濡れた指を舐め、次に伏黒と“詩音”へも【反転術式】で応急処置を施す。
分かっていたことだが、道連れの形で調伏の儀に詩音とゴミを巻き込んだのか。二人とも仮死状態のようだ。
喚くゴミはすぐに始末しようかと思ったが、思いとどまって正解だったな。
「なぜ助ける……?」
『礼を言わぬ不敬を許すのはオマエと伏黒 恵だけだ。感謝しろ。オマエたちにはやってもらわねばならんことがある』
正確には、オマエたちのどちらか だがな。
「僕と恵に……? なら、詞織を助けた理由は何だ?」
『詞織……?』
――『……あたしは どうなってもいいの。ただ、詞織を死なせたくない……!』
――『詞織以外なら なんでも差し出す! 力も尊厳もいらない! お願い……!』
あぁ。詩音が助けたがっていた妹の名か。興味がなさすぎて記憶していなかった。