第54章 残虐なるヴィルトゥオーゾ【渋谷事変】
【魔虚羅】を倒せた術師は存在しない――それはつまり、情報が存在しないということ。
もし適応という推測が正しいとすれば、【魔虚羅】の攻略方法は初見の技を使って適応前に倒すこと。適応されれば、その直前に受けた傷も影響もリセットされてしまう。
初撃の【勾炎龍】は負の呪力、二撃目の不動明王と【迦楼羅炎】は正の呪力を使っているが――おそらく どちらも適応されている。
この二つは星也の術式の中でも高威力を誇る――適応されたのはかなり痛い。
しかし、詞織と伏黒……二人を助けるためにも、負けるわけにはいかない。
手数の多さは【陰陽術式】の最大の長所だが、【魔虚羅】に効く技は限られている。一撃で倒せるとなると――……。
【魔虚羅】が素早く距離を詰め、剣を放ってきた。
「【聖観音――急々如律令】!」
パリンッとガラスを割るような軽い音がしたかと思うと、剣が星也の肩を斬り裂く。
「ぐぅ……っ!」
身体をずらして致命傷を避け、後ろに飛び退いた。
まさか、聖観音の防壁も適応したのか⁉
もし、詞織と伏黒(呪詛師も)を守る【黒衣鳥】に攻撃されたら、確実に二撃目は破られる。
肩の傷――治している場合ではない。
時間をかけていたら手数は絞られ、どんどん不利になる。
できれば……この手は残しておきたかったが……。
ふー…と重たく息を吐き出し、星也は両手の指を内側に絡め、人差し指を立てた。