第6章 アニマートに色づく日常【鉄骨娘/始まり】
「呪いは人の心から生まれる。人口に比例して呪いも多く、そして強くなるでしょ?」
「つまり、地方と都会じゃ、呪霊のレベルが違うって……そういうこと?」
そういうこと、と五条は返す。
「レベルと言っても、単純な呪力の総量の話だけじゃない」
『狡猾さ』――知恵をつけた獣は、時に残酷な天秤を突きつけてくる。命の重さをかけた天秤を。
「命――」
詞織がポツリと呟いた。
いずれ、選ばなければならないときが来るかもしれない。
それは仲間かもしれないし、名前も知らない他人かもしれない。それか――……。
伏黒は詞織を見た。すると、少女は淡々とした声音で、けれどどこか思い詰めたような表情で言葉を紡ぐ。
「わたしが選ぶ命は決まってる。わたしは"絶対"に躊躇わない」
どちらかしか選べずにどちらも失うなんて最悪だから、と。
「でも……どっちも助けられるように、強くなりたい」
ギュッと手を握りしめた詞織の拳が震えていて。
伏黒はそっと少女の拳を手のひらで包んだ。
「メグ……?」
「力みすぎ。もっと肩の力 抜けよ」
選ぶことなんてない。そのときは自分が選ぶ。
失われた命の重さに耐えられなくなる詞織なんて、見たくない。
そのとき――不意に、呪いの気配に背筋が震えた。詞織や五条も感じたようで、三人は揃って廃ビルを見上げる。
同時に、ズルンッと廃ビルの壁をすり抜けるようにして飛び出してきた。毛むくじゃらの身体に、ギョロギョロと飛び出した目玉。よく見ると、片腕が欠損している。
「――【春の日も……――】」
光属性の攻撃を可能とする和歌を詠もうとする詞織を、五条が「待って」と止めた。
『オッ! アァ、アァアア!』
三人の視線の先で、唐突に呪霊が呻き出す。呪霊の身体からは、内側から黒い棘が何本も飛び出し、やがて絶命した。
「あれは……呪術……?」
「虎杖に呪術は使えない――ということは……」
これをやったのは、釘崎 野薔薇だろう。
「いいね。ちゃんとイカレてた」
五条はニヤリと口角を上げて笑った。
* * *