第6章 アニマートに色づく日常【鉄骨娘/始まり】
「あ――それから、悠仁」
呼び止めたのは五条だ。
「なに、先生?」
「宿儺は出しちゃダメだよ。近くの人間も巻き込まれることになるから」
呪いの王とすら呼ばれる宿儺なら、その辺の呪霊など羽虫も同然だろう。
まぁ、そんなモノにいちいち出てこられては、こちらも堪ったものではないが。虎杖の処刑が早まりそうな気すらする。
五条に頷く虎杖を釘崎が急かし、今度こそ二人は廃ビルに消えて行った。
「……行っちゃった」
「やっぱ、俺たちも行きますよ」
釘崎は経験者かもしれないが、虎杖は戦闘経験もないようなものだ。
訓練もしていない状態でいきなり実地試験なんて危険すぎる。
「無理しないの。二人とも病み上がりなんだから」
「病み上がりなんて心外。姉さまの力でもう治った。傷も残ってない」
「それに、虎杖は要監視でしょ」
それも含めての、呪術高専への入学のはずだ。
「まぁね。でも、今回 試されているのは、野薔薇の方だよ」
そう言って、五条はコンコンと頭を指で叩いた。
「悠仁はさ、イカれてるんだよね」
異形とはいえ生き物の形をしたモノを――自分を殺そうとしてくるモノを一切の躊躇もなく殺(と)りに行く。
それも、伏黒たちのように昔から呪いに触れてきたわけではない、普通の高校生活を送ってきた人間がだ。
「才能があっても、この嫌悪と恐怖に打ち勝てず、挫折した呪術師を二人も見たことあるでしょ」
伏黒も詞織も、答えることなく沈黙した。
思い詰めたような表情をして、最終的に呪術師という職業から逃げ出す人間は、決して少なくない。
それほどまでに呪術師という仕事は、肉体的に……そして、それ以上に精神的に負担を強いるのだ。
「今日は、野薔薇のイカレっぷりを確かめたいのさ」
「でも、釘崎は経験者ですよね。今更なんじゃないですか?」
伏黒の言葉に、五条は口角を上げて首を振った。