第54章 残虐なるヴィルトゥオーゾ【渋谷事変】
「ちょっと、アンタ! コイツの仲間⁉︎ だったら何とかしろよ‼︎」
「少し黙ってくれないか」
短く切って捨て、星也は男――おそらく呪詛師――を睨みつける。
「僕が死ぬか、アレが斃れるまで口を開くな。耳障りだ」
伏黒が考えなしに【魔虚羅】を呼ぶとは考えにくい。かと言って、目の前の呪詛師は大した術者ではない。正確な強さは分からないが、詞織と伏黒が揃って一方的な戦いになるとは思えなかった。
ならば、考えられるとしたら、渋谷での戦いで消耗していたところをこの呪詛師に襲われ、窮地を切り抜けるためにこんな自殺行為を強行した。
怯えたように押し黙る呪詛師を睨みつけ、星也は【魔虚羅】に向き直る。凄まじい気迫―― 一筋縄ではいかないだろう。
「全く……手のかかる“弟”だよ……」
勝てるのか――いや、二人を助けるためには、儀式の参加者ではない自分がコイツを倒し、調伏の儀 自体をなかったことにするしかない。
まずは詞織と伏黒の治療を――と思ったところへ、【魔虚羅】の拳が迫る。避ければ伏黒たちが……。
「【聖観音(しょうかんのん)――急々如律令】!」
真言の省略――こちらもようやく 真言を唱えるのとほぼ同威力で発動できるようになった。
キリークの種字が現れ、【魔虚羅】から星也たちを守り、拳を受け止める。ビリビリと震える種字にひびが入り、星也は険しい表情で正の呪力を流す。
ダメだ……受け止めきれない……!
「【騰蛇・勾陣――合成天将『勾炎龍(こうえんりゅう)』劫火滅焼(ごうかめっしょう)】‼」
【騰蛇】の性質は全てを燃やし尽くす炎。そこに【勾陣】の持つ闘争心で底上げする。特級すら瞬殺する威力だ。
【勾炎龍】が顎(あぎと)を開き、体表と同じ紅金色の炎を吐き出した。
炎の直撃を受けた【魔虚羅】の拳の勢いが弱まる。
いまだ――ッ!