第53章 恐怖を讃えるコラール【渋谷事変】
「オレ、あっち見てくる!」
「おう、しっかりやれ」
副都心線とは全く違う方向を指をさし、パンダが怪我人、もしくは呪霊や改造人間に襲われている一般人がいないか探しに行くのを見送る。
コイツはパンダのくせに、自分以上に人の心がある。だが、パンダゆえに渋谷の土地勘はない。この見た目だから、任務以外で高専の外へ出ることができないのだ。
今いる場所から副都心線が、このまま地上から行けば目と鼻の先であると気づいていない。
次は駅で迷ったフリだな。できれば駅にも入りたくないが……。
相手は五条封印をなし遂げた連中だ。しかも、さっきから特級レベルの大きな呪力が出たり消えたりしている。
「やってられるか、アホらしい」
棒付きキャンディーを口の中で転がしながら、日下部は深いため息を吐いて嘆息した――そこへ、鋭い視線を感じて見上げる。
「高専の術師だな?」
そこにいたのは、布で顔の半分を覆った男と髪の長い美女の二人。高専の術師ではない。タイミング的に見ても呪詛師だろう。
「投降しろ。できれば術師は殺したくない」
男の言葉に答えず、日下部は「パンダ」と小声で呼んだ。
「後ろに三人。たぶんもっと隠れてる」
パンダの回答に日下部は口角を上げ、視線を頭上の二人に向ける。
「俺も殺されたくはないが、『はい、そうですか』ってわけにもいかんのよ。話を聞かせてくれ。長〜いヤツを」
引き伸ばせるだけ引き伸ばす。できれば行動の動機や目的、なければ身の上話でも何でもいい。泣ければ泣いてやる。
頼む! 足止めしてくれ‼︎