第53章 恐怖を讃えるコラール【渋谷事変】
「なぁに⁉ その女の子のこと、そんな大事なの? 大丈夫! すぐにその子も殺してあげるからさぁ‼」
ふざけんな!
殺されたってこの手は離さねぇ‼
グッと奥歯を噛み締め、なけなしの呪力を振り絞り、【玉犬】を呼び出す。
主人である伏黒の頭に血が昇っているからか、それとも詞織を殺すと言われて怒っているのか。いつもより激しい唸り声を上げながら【玉犬】が爪を振り上げて男に襲いかかった。
「うわぁっ⁉ 危ない 危ない!」
掠めただけか。だが、別にそれでいい。
牽制した【玉犬】が、伏黒と詞織を抱えて男と距離を取ると、ドロリと影の中へ溶ける。なけなしの呪力でも温存したくて術式を解いたのだ。
「はぁ……っ、はぁ……っ!」
隙だけは見せるな。その思いで詞織を抱えて先を進もうとするも、力が入らず膝を折ってしまう。
「ふ――……ふ――……」
もう、ここまでか……。
「……ごめんな、詞織」
小さく呟くように言って、伏黒は瞼を閉じた。
* * *